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電子計算機使用詐欺罪とは 刑法とコンピュータ犯罪


本日のサムネイルのイラストが好きすぎる。

本当は行政書士としては専門外…に見えて、警察署に提出する告訴状や告発状の作成もできるので刑法に全く無関心というわけにはいきません(ややこしいですが検察庁に提出する場合は弁護士か司法書士の専権業務となります)。
たいていの人は突然に心当たりのない4630万円が自分の口座に振り込まれたらマネーロンダリングの片棒でも担がされているのを疑い不安になるのではないかと思ったので、本日のサムネイルはマネーロンダリングのイラストです。当サイトでもよく使用している、いらすとや様のイラストの中でも一二を争うレベルで好きなイラストなのですがわかる人いませんか?

問題の事件について、「電子計算機使用詐欺罪とは何か」を扱っている記事がありました。特に今更細かく言及するつもりはないですが、民法第703条・第704条あたりの「不当利得の悪意の受益者」(民法での「悪意」とはこの場合「(誤入金と)知っていた」)として民事での責任追及を想像していたので、刑事として責任が問われるのは意外でした。地方自治体側に行政訴訟等で責任が問われる可能性はないとはいえないですが、その原告となる適格が誰にあるのか(同じ町の他の町民?)、そこまで責任を問わないと気が済まない人がいるかどうかが現時点では疑問です。人手不足など色々問題はあったようなので再発防止の対策の方が有益だと考えている人が多いのではないかと思っています。
関連リンク:「電子計算機使用詐欺」とは 4630万円誤給付で24歳男に適用

電子計算機・電磁的記録に関する刑法犯罪

(2022/05/20追記:「電子計算機損壊等業務妨害」についてもより詳しく触れるため、並び順や表現の一部を変更・加筆修正しました)
刑法に出てくる「電子計算機」はパソコン・ATM・自動改札などコンピュータ全般を含みます。刑法にはいくつか「電子計算機」「電磁的記録」を罪名に含む条文があり、その性質上、刑法施行からかなり後になって追加された条文が多く、「第xxx条の2」などとしている条文が多いです。
筆者は人間の良い可能性も悪い可能性も否定しないことを旨としているので、極論すれば人間には犯罪者と犯罪者予備軍の2つに分けられると思っています(極端すぎる)。「電子計算機使用詐欺」「電子計算機損壊等業務妨害」は、それこそちょっと魔が差したら誰もが犯罪者予備軍から犯罪者になってしまう可能性のあることが実例としてあてはまります。ちょっと魔が差したら誰もが手を染める可能性があるからこそ「消費者向け情報」に分類しました。

電子計算機使用詐欺

前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

刑法第246条の2

これは従来の窃盗罪や詐欺罪にあてはまらない、コンピュータを不正に用いて不法な利益を得る行為を取り締まるためにできた条文です。
「詐欺」という言葉に引っ張られそうですが、従来の「詐欺」ではあてはまらないものなので、「詐欺」ではピンとこないような事柄でも適用される例があります。
比較的イメージしやすいものとしては、「テレフォンカードの不正利用」「銀行員による預金残高の改竄」「自動改札機を用いた俗に言うキセル乗車」などの判例があります。テレフォンカードの穴を埋めるとか…平成初期か?改竄や不正アクセスなどの計画的犯行から、クーポンの不正取得や自動改札機キセル乗車のような誰もがちょっとした出来心でやってしまいかねない犯罪までが幅広くあてはまると解釈されるようです。
会社からの懲戒処分の発表は過去に何件かあっても刑事訴訟で裁かれた例はないようですが、「駅員による不正なICカード乗車記録の消去や残高の増加」あたりも罪に問われるとしたらこれにあたると考えられます。

例の件では、「誤入金だと知りながら他の口座に入金を振り替えて不法な利益を得た」ことがあてはまると報道されています。今までの判例ではネットバンキングへの不正アクセスによって共犯者の口座に虚偽の振込みをしたという事件があるのでそれに近いと考えられます。
まだ逮捕という段階で(日本の報道や一般社会では逮捕の段階をかなり重く扱いすぎであることを筆者は問題視しています)、起訴されるのか、されたとして有罪判決になるのかもわかりませんが、新しい判例ができるかもしれないという意味でちょっと不謹慎ながら関心があります。

電子計算機損壊等業務妨害

人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第234条の2

「電子計算機」を含むもう一つの条文です。名称からも、収録されている章や条としても「偽計業務妨害」「威力業務妨害」に近いもので、不正アクセスやハッキングによるデータの損壊等による業務妨害があてはまります。
「公式サイトのハッキングとデータ改竄・消去」の判例があります。
現代ではいわゆるサーバーダウン(古のインターネットで言うところの「鯖落ち」)の多くは不特定多数によるアクセス集中によって起こるものですが、個人が意図的にそのような事態を狙ってDoS攻撃(「ゆっくり茶番劇」商標登録で話題になった俗にいう「田代砲」など)、または複数名がDDoS攻撃をした場合にはこの電子計算機損壊等業務妨害罪に問われる可能性があります。過去の事件の多くは起訴猶予や不起訴となっていて判例はないものの、逮捕や書類送検の事例はあるようです。
他にもオンラインゲームの不正ツール使用(俗に言うチートツール)などもあてはまる可能性があります。

電磁的記録不正作出及び供用

人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法第161条の2

わあ!ちょっと魔が差したら行政書士が手を染めてしまいそう!
正直かつ不謹慎な感想はともかく、「的中馬券の偽造」といった判例があります。
その他、現在では後述の「支払用カード電磁的記録不正作出等」にあたる判例があります。

支払用カード電磁的記録不正作出等

人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する電磁的記録であって、クレジットカードその他の代金又は料金の支払用のカードを構成するものを不正に作った者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。預貯金の引出用のカードを構成する電磁的記録を不正に作った者も、同様とする。

刑法第163条の2

具体的には「クレジットカードの偽造」「キャッシュカードの偽造」などがあてはまります。
関連して「不正電磁的記録カード所持」「支払用カード電磁的記録不正作出準備」、またそれらの未遂罪についても定められています。

不正指令電磁的記録作成等

正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録

刑法第168条の2

具体的には「コンピュータウイルスの作成」などがあてはまります。

Posted in 消費者向け情報