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「ゆっくり茶番劇」商標登録に関する今後の対策


実は筆者は大学生の頃にニコニコ動画系動画創作サークルに加入していた。

株式会社ドワンゴのニコニコ生放送タイムシフト/YouTubeライブ配信、また出願人の所属コミュニティ運営者からの発信を元に、権利所有者以外の登録出願についての対策一般を述べたものです。当記事はサムネイルも含め、「※この生中継は、ライブ配信サービスでのミラー・実況、動画サービスへの再投稿、テキストサービスでの書き起こしなど、二次利用を歓迎いたします」という元の動画の概要に記載された方針に従い、スクリーンショットやライブ配信での発言の要約を掲載しています。
元の動画はこちらです。本来、ニコニコ生放送タイムシフト(アーカイブ)はプレミアム会員または事前にタイムシフト予約をした一般会員しか閲覧できませんが、誰でも閲覧できるように公開されています。
関連リンク:
「ゆっくり茶番劇」商標登録に関するドワンゴのアクション (ニコニコ生放送タイムシフト)
「ゆっくり茶番劇」商標登録に関するドワンゴのアクション (YouTubeライブ配信アーカイブ/ニコニコ生放送のコメント付き)

「ゆっくり茶番劇」文字商標に関する説明

最初に株式会社ドワンゴ専務取締役COOの栗田穣崇さんから10分程度説明がありました。当初は司会進行から30分を予定していると言われてコメント欄がざわついていた
この方はTwitterの公式アカウントでも随時経過を報告しておられます。

「ゆっくり○○」というジャンルそのものの説明や歴史は…これについては実際に使用されたフリップのスクリーンショットを掲載します。広い意味ではテレビ番組「モヤモヤさまぁ〜ず」(ナレーションが合成音声)がかなり初期(初回放送2007年1月)ゆっくり動画になるのかもしれません(?)。


商標権や商標登録について、「商標とは自己と他者の商品・サービスを識別する目印」であるとして次のような点の説明がありました。


・動画のタグ、内容、概要(説明)には商標権の効力が及ばない。
・ニコニコ動画のチャンネル名やタイトルで使用されている「ゆっくり○○」という365種類の文字列のうち362種類については明らかに非類似であり商標権の効力は及ばない。残る3種類は類似の可能性があるが、これらについても商標権の効力が及ばない可能性が高い。
・動画タイトルにジャンルやカテゴリーの表示として用いる場合には商標権の効力が及ばない。
しかし、「商標権者はライセンス料の請求を撤回したが、商標権を持ったままのため使用料を要求する可能性がある」「商標権者になりすました第三者が金銭を要求する被害が起きる可能性もある」「金銭の要求に不安や恐怖を感じたり、争いごとを苦手としたりしている人が法的に支払う義務のない金銭を支払ってしまうかもしれない」という現時点での問題点を挙げておられました。

ドワンゴのアクション

コミュニティで多くの人が共有することで築き上げてきた名称の商標登録によって、クリエイターが安心して動画を創作できる状況が害されている状況、また「ゆっくり茶番劇」は小説の「ライトノベル」テレビ番組の「連続ドラマ」のような動画のジャンルを示す言葉で商標として適切ではないとして、原作者とも協議の上で4つのアクションを取ることについて発表がありました。

これらについては次のリンクに具体的にまとめられています。
関連リンク:
文字商標「ゆっくり茶番劇」に関するドワンゴの見解と対応について
文字商標「ゆっくり茶番劇」に関する請求相談窓口

商標権者の所属コミュニティ(後述)は商標権の放棄の意向を発表しているので、まずは放棄交渉、その交渉がうまくいかなかった場合に無効審判請求を行うとのことです。
相談窓口は上のリンクの通りです。これは使用料の請求を受けた人向けなのでむやみな一般的な法律相談には用いないでください。
また、株式会社ドワンゴは既に「投げ銭」を商標登録していることを例として、先願主義を逆手に取った権利ではなく防衛目的の商標登録出願を検討しているとのことです。
関連リンク:登録6271896

ニコニコ動画はやはり日本に本部があり、スピード感のある日本の法律に従った対処ができるというアドバンテージがかなり強いと感じました。
質疑応答の要約は、なんだかそこまでクリティカルなものがなかった(婉曲)ので2ページ目に分けました。質疑応答で出てきた重要なポイントは既に上でいくつか触れています。その前に商標権者の所属コミュニティからの発表について記載することとします。

商標権者の所属コミュニティからの発表

商標権者の所属コミュニティからの発表がありました。「事務所」としていないのは、VTuber事務所でもMCNでもなく希望者はほぼ誰でも加入できる自由なコミュニティで、それに加えて運営はボランティアの有志によるものなので本来は責任を負わなくてもいい立場ですが、「コミュニティや運営への影響が大きい」「退会させるとかえって状況が把握できないからあえて無期限会員資格停止にとどめて連絡が取れるようにしている」という状況のようです。
関連リンク:所属ライバー「柚葉」に対する懲罰処分について

公式Twitterはかなりゆるいので重要なツイートが探しにくいのですが、探したところでは商標権者が「放棄による商標権抹消登録申請書」を弁理士を通して特許庁に提出し、受理から通知までに2週間程度、抹消までにはさらにかかるとのことです。J-PlatPatでのステータスが「消滅-登録-権利放棄」になるまで見届ける必要がありそうです。ちなみに抹消や権利放棄の手続きがなされず、無効審判を経て無効になった場合は「消滅-登録-取消/無効」となります。
関連リンク:登録6518338

また、全くの別件ですがこのアカウントを管理している事務局長が本業多忙(?)のため、しばらく別の事務局員に管理を移すことも述べられています。

https://twitter.com/CoyuLive/status/1528656897070747648?s=20&t=VLeHBkhBUOxN9lelmXSrag

不当な疑いの強い商標登録(出願)があった場合一般の対策

権利所有者以外による商標登録はこれに限らず以前から問題視されていて、特許庁からの注意喚起や日本弁理士会の会員による「炎上事例」の考察が公表されています。本当に原文通りのタイトルです。
関連リンク:
自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意) (特許庁)
商標登録出願にかかる炎上事例に関する考察 (日本弁理士会)

商標権の目的は「業務上の信用を維持」「産業の発達に寄与」「需要者(=一般消費者)の利益を保護」であり、商標登録は「自己と他者の商品・サービスを識別できる」ことが重要です。これらの要件が欠ける商標登録は意義に乏しく、今回の件に至っては全部かけています。
商標法違反・商標権侵害として問題となるものの多くはキャラクター・ブランド等の偽物に関わることであり、それ以外の一般に用いられている名称等が商標登録されたからといって、他の利用者にその商標権者のものと誤認させる目的があるのは考えにくく、たいていは今回の件のような「商標権の効力が及ばない」という形に収まると思います。
例えばニコニコ動画やYouTubeの動画タイトルに有名なキャラクターやブランドの名称を用いたからといって、それがそのキャラクターやブランドの公式動画と誤認させることは考えにくいというのと同じです。実際に動画投稿サイトの動画タイトルにでよく用いられていそうな商標はゲームの名称などですが、それも公式動画と誤認させるようなことは考えにくいと思います。
他人の知的財産権に関する知識やリテラシーの不足につけこんで創作を害する行為は許されません。それについて詳しくは当サイトの過去の記事もご覧ください。

次のページはまた株式会社ドワンゴの記者会見に戻り、質疑応答の要約です。

Posted in 知的財産権全般