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「岩下の新生姜」類似品問題と新パッケージ


知財検定2級を取得しましたがやっとそれらしいことを書きます。岩下食品の岩下和了社長はとにかくエゴサすることで知られているのでこれもリツイートされるかもしれません。

今までの経緯と類似品対策

「岩下の新生姜」は長年にわたって類似品問題に悩まされ、何度も警告書を相手方に送付していることを公表しています。類似品を誤って買った人が「岩下の新生姜だと思い込み、言われているほどおいしくないと思った」「家族に購入を頼んだら誤って類似品を購入してきた」というような実害も発生しているといえる状況です。

ニュースリリースによると、今まで相手方に6度にわたって弁理士登録もしている弁護士を通して警告書を送付しています。また、消費者に対する注意喚起とともに、消費者が誤認する可能性に関するアンケート調査をしているとのことです。特に④〜⑥についてはこれまでの経緯も掲載されています。
関連リンク:
山本食品工業株式会社に対する警告書の発送について
山本食品工業株式会社に対する警告書の発送について②
山本食品工業株式会社に対する警告書の発送について③
山本食品工業株式会社に対する警告書の発送について④
【重要なお知らせ】類似品にご注意ください
「新生姜」ブランドの地位向上及び類似品との混同防止を目的とした認知度に関するアンケート結果のお知らせ
山本食品工業株式会社に対する警告書の発送について⑤
山本食品工業株式会社に対する警告書の発送について⑥

そして、今年8月末に類似品対策として2021/09/08出荷分からのパッケージリニューアルを公表し、市販品も随時切り替わっていくとのことです。類似品対策とはいえ、模倣された側の岩下食品がパッケージを切り替えるのは釈然としませんが、消費者からの待望の声も大きかったキャラクター「イワシカちゃん」を大きく載せたパッケージに変更されます。
関連リンク:「岩下の新生姜」のパッケージが変わります!類似品対策として、巾着タイプから平袋に変更。お客様の声を反映して「イワシカちゃん」の新デザインで9月8日出荷開始。

岩下食品の商標権・意匠権

さて、警告書の送付に対して相手方は「模倣をしていない」「紛らわしいとは考えられない」「警告に関するニュースリリースの削除要求」などの回答を返している状況とのことです。この記事のタグとして便宜上は岩下食品が取得している「商標権」「意匠権」を設定していますが、「岩下の新生姜」の商標そのものやパッケージのデザインの意匠そのものを模倣しているとは言い難いことから、岩下食品側が商標権や意匠権を侵害されたとして法的措置に踏み込むことができず、おそらく相手方もそういった事情に気がついた上で模倣を続けていると思われます。実にやり方が汚いですね。筆者も店頭で並んでいるのを見ると一見紛らわしいと思うので必ず裏面の製造販売元を確かめるようにしています。漬物の類を好んで食べないので新生姜以外の紅生姜やらっきょうはそもそも購入自体しませんが、紛らわしいとは思います。商標権・意匠権を明確に侵害していないものの、製品のブランディングや消費者からの信用に便乗していて消費者の誤認を生じるおそれがある非常に厄介な場合、どのような措置がとれるのでしょうか。

不正競争行為

このような場合、「不正競争防止法」で取り締まることができる可能性があります。
不正競争防止法の条文を引用すると「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等を使用し、(中略)他人の商品または営業と混同を生じさせる行為」、専門用語だと「周知表示混同惹起行為」にあてはまるおそれがあります。「需要者の間に広く認識されているものと類似」と判断される可能性、というか現に需要者(消費者)の間で紛らわしいと思われているという事実があります。また、岩下食品のニュースリリースによると、取引先のスーパー等小売店に対して相手方が「商品(中略)若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、(中略)について誤認させるような表示をし、(中略)若しくはその表示をして役務を提供する行為」と「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為」、ニュースリリースにも用いられている専門用語だと「品質等誤認惹起行為」「虚偽告知(営業誹謗行為)」をおこなった事実が確認されているとのことです。どうやら相手方がいくつもの不正競争行為をおこなっていて開いた口がふさがりません。商標権や意匠権をあからさまに侵害しているわけではないが需要者(消費者)や取引先に紛らわしい商品や虚偽の情報を提供しているというこのようななんとも難しい状況の場合、不正競争防止法で取り締まることができる可能性があります。

岩下食品による対策と今後

このようなかなり判断が難しい不正競争行為の場合、民事裁判による差止請求などの法的措置をとって万が一にも岩下食品に不利な判決となるリスクもあります。俗にいうコストパフォーマンスで言えば類似品を放置はしないものの、対策として注意喚起やパッケージの変更が結果的に類似品に対する抑止力として働きかけるのに適しているという判断かもしれません。また、この件であからさまな商標権侵害は発生していないものの、「需要者の利益を保護」という商標法の理念にもかなっているやり方であると思います。筆者としては相手方の食品会社をあまり一方的に悪者扱いはしたくないので、これを機に不正競争行為などではなく正々堂々と商品の質で渡り合ってほしいと思っています。

Posted in 知的財産権全般