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知財検定2級行政書士が解説する「ゆっくり茶番劇」商標登録のこと


昨日は一般論だったのに唐突に直球にする人

商標登録の目的と意義に関する一般論については昨日の記事で書きました。また、動画もアップしています。
関連記事:商標登録の目的と意義 不当な疑いに対する異議申立てや無効審判について
関連リンク:行政書士VTuberエリマコト 商標登録の目的と意義

筆者は行政書士です。弁理士のように商標登録出願や商標登録無効審判の代理もできなければ、弁護士のように訴訟の代理もできません。
そのような争いにならないように官公署へ提出する書類や契約書等を作成する、いわば士業の中では防御専門の仕事です。防御専門だからこそ発信したいことを述べたいと思います。

問題の商標と担当特許事務所の見解

問題の商標登録はこちらです。
関連リンク:登録6518338

さて、筆者が多くを語るまでもなく、この商標登録出願を代理した特許事務所から情報が出ています。
関連リンク:「ゆっくり茶番劇」について

この件に関して特許事務所や特許庁の責任を問いたい方や、上の文章について言い訳がましく感じる方もいるかもしれません。
しかし、原作者公認とはいえいわゆるネットミームであること、手続として不備があったといえないこと、商標登録そのものが違法と断言できるかはかなり難しいところであることを考慮すると、インターネット上で著名・周知の概念だからといって特許事務所や特許庁の判断に不備があったとは言えない可能性が高いと考えています。
これまた納得のいかない人もいるとは思いますが、特許等のように必ずしも考案した人が出願人である必要はありません。

述べられている通り、「商標登録を受けることができない商標」あたりに抵触するおそれはあるように思います。

他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

商標法第4条第1項第19号

また、既に用いていた人は「先使用権」を有することによって商標権侵害自体が成立しないことも考えられます。

他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。

商標法第32条

筆者の個人的な感想としては、「権利所有者の業務上の信用の維持」「産業の発達に寄与」「需要者(=消費者)の利益を保護」の3つを掲げる商標法の目的をあまりに無視した商標登録であるように思います。どれも達成できそうにありません。

あと特許事務所に対する爆破予告は当然ながら論外です。こういったことは特許事務所に対してはもちろん、商標公報に掲載されている出願人(これも出願人本人の住所ではないとされる)の住所に対しても同様です。こういった犯罪予告や、この件について出願人の民事上又は刑事上の責任を問う訴訟が起こった場合に、「被告(人)が既に社会的制裁を受けた」ことが考慮されてしまうおそれがあります。
明らかに出願人を名指しで制裁しようとしているようなハッシュタグの拡散は犯罪とまではいかないものの、先述の社会的制裁にあたるとされる場合もあり、なんというか、お行儀が悪いです。
出願人を誹謗中傷してはいけないのも当然ですが、この手の行動を起こしてしまう人物は正当な批判すら誹謗中傷と捉えないかという不安はあります。

商標登録に関する防御について

先願主義を逆手に取る

商標(その他特許等の産業財産権)は先願主義なので、早い話が「考案した人が他の人より先に商標登録する」という方法があります。
この例としては「ゆるキャラ」を考案し商標登録した、みうらじゅん氏(実際の登録名義は有限会社みうらじゅん事務所、また関連書籍の版元である扶桑社)が挙げられます。みうらじゅん氏は「他者が商標登録することによって”ゆるキャラ”を自由に使えなくなることを防ぐため」としてライセンスや営利を目的とせず商標登録し、結果としてご当地だけではなく企業・団体も巻き込むような「ゆるキャラ」産業の発達に寄与しました。

異議申し立てと無効審判

このように既に商標登録されている場合はそうもいきません。
J-PlatPatのステータスでは「異議申立のための公告」期間となっていますが、これは仕様上は商標広報から3ヶ月程度表示されるらしく、実際には異議申立てが可能な2ヶ月を既に過ぎています。
そのため、不当な疑いが強いとしても可能なことは無効審判なのですが、これには「利害関係人」という条件がついています。「利害関係人」というのは、商標登録されているものを使用して侵害警告や差止請求を受け取った人などがあてはまります。無効審判を起こしければわざと文字商標を使用して侵害警告や差止請求を受け取り、弁理士を依頼…これ以上書くと良くないことを唆しそうなのでやめます。どうせなら多くの人がわざと文字商標を使用して「利害関係人」を増やす……これ以上書くと良くないことを(略)。決してそのような行為を推奨する意図はありません。
文字商標と二次創作の原作に直接は関係ないので(ネットミームとして関係あるのは明らかとしても、特許事務所や特許庁で受理されたことからも誰が見ても明らかに関係あるとは言い難い)、原作者、また他の同様の配信者が現状でも無効審判を起こすことができる利害関係人といえるかどうかも筆者には断言できません。

だけど気になることがある

だけど気になることはない(いつものやつ)。
気になることはあるので書きます。

出願した本人と出願の名義人が異なるとされること

これは特許等だとかなり問題があるのですが、商標の場合は必ずしもアウトとは言い難いところです。
同じように「出願人が考案者でない」ことも商標の場合は必ずしもアウトとは言い難いところです。

出願人のYouTubeチャンネルはUUUM CREAS・Coyu.Liveに参加していること

UUUMは日本で有名なYouTuberが多数所属するYouTuber事務所であるとともに、YouTubeのチャンネルを運営していれば誰もが使えるサポートを提供するコミュニティ「UUUM CREAS」と「UUUM palatte」(旧:UUUM SPAAAK)を提供しています。
未収益化のチャンネルでも加入できますが機能が制限され、収益化されている(YouTubeパートナープログラムに参加している)と全ての機能を使うことや、MCNとして参加することができます。
出願人がUUUM所属と誤認させるような記述をしていたことも問題となっていました。
関連リンク:UUUM SUPPORT WEB PORTAL

また、もう一つの所属であるCoyu.LiveもVTuber向けに誰もが使えるサポートを提供するコミュニティであり、いわゆるYouTuber事務所とは異なり、MCNとしての権限や機能は持たないようです。
関連リンク:Coyu.Live

出願人の目的

TwitterアカウントやYouTubeチャンネルの名称を何度も変更していること、過去にYouTubeチャンネルを譲渡したと思われる記述、詳細は不明なものの他の同様の配信者を貶めるような動画をアップしていることあたりから推測します。
出願人の人物像というより自分のインターネット歴から考えると「フォロワーや登録者を集めてアカウントを売却」あたりが一番可能性が高く、「競合する他のチャンネルを潰す」あたりはあるとしてもついでみたいなものだと思います。しつこいようですが推測です。

Posted in 知的財産権全般