本日の記事は過去に当サイトや個人サイトにアップしたものを適宜加筆修正したものです。
当サイトは「行政書士が運営するcreatorとconsumerのためのwebメディア」としている通り、俗な炎上煽りだとかまとめだとかではなく、様々なトラブル事例や特にトラブルとはいえないが参考になる事例とそこから学んだことをYouTuber等のクリエイターとインターネットを利用する一般の消費者(consumer)のために蓄積することを目的としています。
商標登録には商標法に定める「業務上の信用の維持」「産業の発達に寄与」「需要者の利益を保護」の3つの目的があり、どれか一つでも欠けると商標としては意義が乏しいところがあります。
問題の一件についてはライセンス料を撤回したとのことで、なんにせよ筆者が推測したTwitterアカウントやYouTubeチャンネルの売買目的の可能性が高くなってきました。警告を恐れて侵害のおそれのある動画を削除するのは、後の事例にもありますが取り返しがつかないのであまりおすすめしません。
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今回は過去に当サイトや個人サイト(Elizabeth Hour 01)にアップしたものやそれ以外の事例から商標登録や商標権一般について学んでいきます。
キャラクターの商標権
現代では一般の個人の創作したキャラクターがSNSやLINEクリエイターズスタンプ等で人気を博したり、Suzuri等のサービスで比較的容易にグッズを販売したりということがあります。一般の個人として商標登録を出願する意義があり、現代で最も想定されるパターンです。
キャラクター名を商標登録することで偽物や無断の二次創作のグッズ等が出回るのを差し止めることができます。
人気のLINEクリエイターズスタンプのキャラクター名をJ-PlatPatで検索するとあのクリエイターやそのクリエイターの実名らしきものが(これ以上いけない)。
実際にはグッズ化のライセンスの窓口として契約した企業の名義で商標登録を出願することも多いようです。
企業・団体名義でのキャラクターの商標についても扱います。
サンリオやサンエックスのようなキャラクタービジネスを扱う会社に所属するデザイナーが創作したキャラクターは、所属の企業名義で商標登録されることになります。また、公募によって定められたキャラクターは、その権利が帰属する団体の名義で商標登録されることになります。キャラクター等の図案のみで商標登録されていることもあります。
たとえば2025年大阪万博のロゴ、インターネット上での通称「いのちの輝きくん」は、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の名義で商標登録されています。協会は個人で楽しむ範囲のファンアートや立体物の創作(あみぐるみ等)には寛容な方針ですが、営利を得るグッズの販売は商標権侵害になります。
関連投稿:2025年大阪万博ロゴ(いのちの輝きくん)公式グッズを買った
関連リンク:登録6413542
ブランドの商標権
高価なブランドなら偽物も多く出回っていそうですが、高価なブランドに限らず、カジュアルなブランドでもそのような事例があります。
これについては過去にanelloの定番口金リュックについて扱いました。
本物の価格帯も4000円程度(現在は5000~6000円程度)とかなり安価にもかかわらず、さらに安価で粗悪な模倣品が出回りました。anelloとしての信用の保護、そして何よりも「需要者(=一般消費者)の利益の保護」のために商標登録によって模倣品を差し止め、地道な対策で日本国内からほぼ模倣品を駆逐しました。
関連記事:anelloの定番口金リュックの知的財産権
関連リンク:
事例から学ぶ 商標活用ガイド
平成28年(ワ)第8424号判決
「ゆるキャラ」商標登録の目的
しつこいようですが筆者が一番伝えたいことです。
「ゆるキャラ」を考案したみうらじゅん氏は、商標登録の理由を「無関係な第三者により商売に利用されたり、第三者に商標を取られ「ゆるキャラ」という言葉が自由に使えなくなることを防ぐためである」としています。実際には有限会社みうらじゅん事務所・扶桑社(「ゆるキャラ」関連書籍の版元)名義での商標登録となっています。
先願主義(俗に言えば早い者勝ち)を逆手に取り、自由なゆるキャラ産業の発達のためにあえてコストを惜しまず登録したとのことで、商標登録にはそんな使い方もあるのかと感銘を受けました。
関連投稿:「ゆるキャラ」商標登録の目的
「断捨離」商標登録の問題
2009年に「断捨離」の考え方を片付けに応用した書籍が出版され、片付けの方法を示す用語として世の中に広まってから、書籍の著者が「断捨離」を商標登録し、商用利用を厳格に制限すると公式サイトで公表しました。
しかし、「断捨離」は元々は仏教の「断行・捨行・離行」をもとに日本にヨガを広めた第一人者である沖正弘先生がヨガに関する著書で用いた言葉であり、片付けに関する書籍の著者が考案した言葉ではありません。また、書籍の著者も元々は沖先生の流派のヨガを習っていたことを公表しています。「断捨離」を提唱した人物がその言葉そのものに執着しているという、沖先生の思想を実践できていないことを表す事例です。
実際にミニマリストYouTuberが、収益化しているチャンネルであることを理由にこの書籍の著者から警告を受け、450本もの動画を削除したそうです。これについては、偶然ながら後の編み物ユーチューバー著作権裁判の原告代理人弁護士にミニマリストYouTuberの方が相談した動画があるのですが、動画の削除を避けるためか、まるで放送禁止用語であるかのような扱いになってしまっています。
関連投稿:「断捨離」はヨガ・仏教用語?商標登録の問題とは
関連動画:【ミニマリスト注意】商標権の侵害で動画450本を削除した件を弁護士に相談した結果。
商標ゴロの実態
商標に関心が高い人々の間では有名な元弁理士のU氏・関連会社B社です。
その数は日本国内の商標登録出願の1割を占め、「先に商標登録して権利を得ることで利益に繋げることが目的」と公言しているものの、ほとんどが手数料を支払わず撤回されています。
特許庁が掲載している「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」という文書は、元々このような事例があったためにかなり前から公表されています。日本弁理士会の炎上事例の考察とあわせて、今こそ広めたいものではあります。
こういった行為は「パテント・トロール」「コピーライト・トロール」ならぬ、「トレードマーク・トロール」とでも言えるのかもしれません。
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関連リンク:
自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意) (特許庁)
商標登録出願にかかる炎上事例に関する考察 (日本弁理士会)