一般的なインターネットユーザーの知的財産権リテラシーが思っていたほど高くはないように感じたので、できる範囲で知的財産権リテラシーの向上に尽力したいです。
商標登録の目的
この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
商標法第1条
「業務上の信用の維持」「産業の発達に寄与」「需要者(=一般消費者)の利益を保護」という3つの重要な目的があり、どれか一つが欠けても商標登録としては意義が薄いのではないかと考えています。
このため、実際に商標法違反として刑事告訴や民事としての損害賠償請求に及ぶ事例は、キャラクターやブランドの偽物に関わることが圧倒的に多いです。商標は自他の商品・サービスを識別するためのものであるため、「商標権者の知名度や信用に便乗して本物と誤認させ、その信用を失墜させたり不当な利益を得たり消費者に不利益をもたらしたりする行為」が多くの場合は問題になります。逆に言うとそうでない場合は問題となる可能性が低いです(法律に関わることで絶対はありません)。
「ゆっくり茶番劇」に関する見解
(商標登録された文字商標そのものとは無関係とはいえ)原作の存在する二次創作であること、またYouTubeで広まる以前からニコニコ動画で発展した文化であることから、原作者およびニコニコ動画の運営元である株式会社ドワンゴから、法律事務所と相談した上での見解が出ています。
原作者である東方Projectの博麗神主ことZUNさんによる一連のツイートです。
原作者としては原作に関連した二次創作にあたる場合の言及にとどめ、それ以外のオリジナルキャラクターを用いたものなども含む一般論に関しては株式会社ドワンゴからの見解が出ています。合成音声によるナレーションや解説による動画は、個人制作の動画からテレビ番組「モヤモヤさまぁ〜ず」まであてはまる幅広い概念ですからね(?)。
規約が必ずしも同じではないとはいえ、ニコニコ動画だけではなく、YouTube等に動画投稿する場合の指針にもなるかと思います。また、2022/05/23 15:00〜の記者会見も予定されています。
関連リンク:文字商標「ゆっくり茶番劇」に関するドワンゴの見解と対応について
どちらも簡単に言えば、そんなことはまず有り得ないと思うが商標登録の出願人が投稿したと誤認されるような動画やチャンネルの名称を利用しなければ、商標権侵害になる可能性は極めて低く、侵害を恐れて動画を削除したりタイトルを変更したりする必要はないという見解です。
この件に限らず一般論として、例えば商標登録されているキャラクター名・ブランド名・サービス名を動画等のコンテンツで言及したりタイトルに用いたりしても、「商標権の所有者による公式のコンテンツと誤認させる」ものでなければ商標権侵害にあたる可能性は極めて低いということがわかる一例になったと思います。
「商標登録無効審判を起こしたら確実に無効審決となるか」「商標権侵害を理由に損害賠償を請求された場合にどうなるか」については、当然ながらこの段階で明言できる性質のものではないため、明言を避けておられます。
出願人や関係者(特許事務所等)への犯罪予告やDoS攻撃(俗にいう田代砲など)は偽計業務妨害罪や電子計算機損壊等業務妨害罪にあたる場合があります。引き続き慎みましょう。
(2022/05/21追記)
出願人が所属しているVTuberコミュニティCoyu.Liveについても、事務所やMCNではないので本来は責任を負う必要のない立場であると思いますが、権利の所在や放棄について明確にするためにあえて契約解除することなく出願人を処分したとのことです。
「事務所やMCNではない」というのは、VTuberなら誰でもTwitterで名乗るだけでCoyu.Live 8期生として一部のサポートを受けられる程度にゆる…間口が広いコミュニティのようです。
関連リンク:所属ライバー「柚葉」に対する懲罰処分について
以前から公表されていたこと(特許庁・日本弁理士会)
権利所有者以外による商標登録はこれに限らず以前から問題視されていて、特許庁からの注意喚起や日本弁理士会の会員による「炎上事例」の考察が公表されています。本当に原文通りのタイトルです。
関連リンク:
自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意) (特許庁)
商標登録出願にかかる炎上事例に関する考察 (日本弁理士会)