一昨日が民法のキリがいいところだったので、本日は「商法」から再開します。
「商法」は、行政書士試験の範囲である「憲法」「民法」、また「刑法」「民事訴訟法」「刑事訴訟法」とともにいわゆる六法に数えられる法律です。全850条からなりますが、実際には今までの改正で条文の大部分が削除されています。また、個人間の取引について定めがある民法が「一般法」であるのに対し、商法は「特別法」という関係にあるため、商人の商行為においては商法が優先されます。
ただし、実際に「商法」から出題されるのはおもに「商人」や「商行為」の定義に関する部分で、それ以外の大半は比較的新しい2006年に施行された「会社法」から出題されます。会社法の施行に伴い、民法の「法人」を定義する条文も大半が削除され、有限会社法などが廃止となりました。
本日は、条文の内容とは前後しますが「商法:総論」「会社法:会社」「会社法:持分会社」とします。
行政書士は法人登記などの商業登記(法務局の管轄)を代理しておこなうことは司法書士の専権業務に抵触するためできませんが、定款の作成や定款認証の代理をすることができます。特に許認可に伴って小規模事業の設立に関わることが考えられるので、持分会社を先にします。実際には株式会社に関する出題が圧倒的なボリュームを占めるのですがそれは「商法:株式会社」として明日扱うことにします。
司法書士の専権業務に抵触するのは、法務局で手続きをおこなうもの(商業登記・不動産登記・供託など)、裁判所に提出するもの(一般的には弁護士が担当することの多い訴状や準備書面などの作成もありますが、多くの人にわかりやすいのは離婚に伴う子の氏の変更許可や、いわゆるキラキラネームや性別の違和感などによる苦痛を理由とした名の変更許可など)といったものです。名の変更許可で珍しいところでは美術活動で用いている芸名のようなものを自ら家庭裁判所に許可を申し立て戸籍上の本名とした妹尾河童さんのような例もあります。行政書士の専権業務は官公署に提出する書類の作成なので、雑に表現すると「他の士業の専権業務に抵触しないものなら可」といったところです。他にも特許庁に提出する産業財産権の申請(弁理士の専権業務)、税務署に提出する確定申告書の作成(税理士の専権業務)など、「できないことを知っておく」のも試験で出題はされなくとも重要なところです。試験で問われる科目もあまり多くなく180分の筆記試験一発、合格率がものすごく低い難関というわけではなく、他の士業に比べて専門性が高くないとはいえ、街の法律家たる行政書士がうっかり他士業の専権業務に抵触する法律違反というのはシャレになりません。
商法:総論
第1条〜第683条(「総則」「商行為」ただし「総則」のうち第32条〜第500条、「商行為」のうち多数削除)
商人(自己の名をもって商行為をすることを業とする者)の商行為について定めています。商事に関し、商法に定めがない場合は商慣習に従い、商慣習がないときは民法に従うこととされています。
商人は商号を定め、その登記(個人事業主の屋号の届出や法人登記での法人の名称とは別)をすることができます。誤認のおそれのある商号、たとえば法人格がないのに「会社」を名乗ることや他の商人の商号と紛らわしいものを名乗ることはできません。また、他人への許諾や譲渡も厳密に制限されています。
商行為として、必ず商行為となる「絶対的商行為」(不動産売買取引や証券取引など)、営業としてする場合は商行為となる「営業的商行為」(不動産賃貸など)、また営業のためにする行為である「附属的商行為」が定められています。商人は反復的に取引などの商行為をすることから、民法とは異なる商人や商行為の場合に特有の規定があります。現代風に言えば、民法はフリマアプリやネットオークションで個人間で単発の取引をするときのこと、商法はネットショップを開設したりECモールに出店したりして仕入れ・製造・卸・販売といった商人(と仕入先や卸先など別の商人、また多数の顧客)が継続して反復的な取引をするときのことを定めていると言えばわかりやすいと思います。
…しかし、試験でも実務上も会社法が圧倒的に重要であるようです。
会社法:会社
第1条〜第24条
2006年の会社法施行に先立って、資本金の下限(株式会社1000万円、有限会社300万円)がなくなり、理論上は資本金1円から会社設立が可能です。実際には登録免許税など、会社の形態や定款の方式に応じて約6万円〜約25万円の費用が必要です。現在、新規に設立可能な会社の種類は以下の4つで、株式会社は所有と経営が分離していますが、その他3つ(合同会社・合資会社・合名会社)は所有と経営が一体である持分会社に分類されます。
会社法第6条・第7条により、会社はその名称(商号)に会社の種類に応じた文字(株式会社・合同会社・合資会社・合名会社)を入れなれけばならないこと(例えば株式会社の場合、俗に株式会社○○の場合を「前株」、○○株式会社の場合を「後株」と言います)、他の種類と誤認させる名称や会社でないものが会社と誤認させる名称を名乗ることの禁止を定めています。
おわかりいただけただろうか…
また、会社法施行以前に存在した「有限会社」は、会社法施行によって株式会社が発起人1名から設立可能になったため(以前は取締役会設置の義務があったため最低でも取締役3名、監査役1名が必要)、新規の設立はできません。しかし、現在でも「有限会社」が多数あるのは、特例有限会社(実態は持分を株式とした株式会社に移行)として会社の商号はそのままで存続することが可能だからです。家族経営など小規模な企業が多い代わりに、「有限会社」というだけで2006年以前から安定して存続している会社であるという裏付けにもなっています。
株式会社・合同会社(・有限会社)は、出資者が出資に対して持つ責任を出資した価額(資本金)の範囲で有限としています。このため、株式会社・合同会社(・有限会社)の社名を英語表記する場合にはCo.,Ltd.となり、Ltd.はLimited(有限)の略です。また、合同会社を英語表記する場合にLLCとつけることもありますが、これはLimited Liability Company、直訳すると有限責任会社の略です。ただし、アメリカのLLCはパススルー課税(個人の所得税と法人税の二重課税を避け、個人にのみ課税される会社)なので厳密には日本の合同会社とは違います。一方で、「合資会社」「合名会社」は会社と連帯債務を負う無限責任の出資者が必要であるため、あまり進んで選ばれない形態となっています。
持分会社について詳しくは次の「会社法:持分会社」にて。
登録免許税!日本で一番嫌いな税金です!(行政書士を目指す人が言うべきことではない)
種類 | 特徴 |
---|---|
株式会社 | 発起人1名(間接有限責任)から設立可能。最も一般的な会社の形態。所有(株主)と経営(取締役)の分離が特徴だが、小規模な場合は必ずしも分離していない。 |
合同会社 | 間接有限責任社員1名以上で設立可能。有限会社に代わる形態として、小規模法人を中心に増えている。パススルー課税の都合上外資系の日本法人にも多い。 |
合資会社 | 直接有限責任社員1名以上と直接無限責任社員1名以上で設立可能。 |
合名会社 | 直接無限責任社員1名以上で設立可能。 |
会社法:持分会社
第575条〜第675条
合資会社や合名会社は無限責任社員をおく必要があるため、新規に設立される持分会社のほとんどは合同会社です。日本に約270万社存在する会社のうち、合同会社は約25万社、合資会社は約6万社、合名会社は約1万社とのことです。
上の表にはしれっと書いていますが、持分会社でいう「社員」は一般的な用法と意味がかなり違います。
一般的な用法で「社員」という場合は例えば新入社員、社員食堂などと「従業員」を指すことが多いですが、持分会社の「社員」は出資者(株式会社でいう株主)であり経営者です。実際には株式会社の株主を「社員」というのも誤りではありませんが、あまり使われません。一般的な用法での「社員」は、憲法の労働基本権では「勤労者」、民法や労働基準法では「労働者」、より一般的な用語で出資者としての「社員」と区別したい場合は「従業員」ということになります。
法律を少しでも勉強した人、「入籍」(「民法:親族」にて)と「社員」という言葉の用法に厳しくなりがち。
定款では目的・商号・本店の所在地・社員の氏名又は名称及び住所・社員が無限責任社員か有限責任社員のいずれであるか・社員の出資の目的及びその価額または評価の基準、会社法に定款の定めがなければ効力を生じない事項、会社法に違反しないその他の事項を記載します。社員が2人以上の場合、定款で業務執行社員とその他の社員(出資のみをする社員)を区別することができます。他にも定款に関して様々な規定がありますが、たいていは「定款に別段の定め」をすることを認めています。たとえば、社員1名の持分会社で社員が死亡した場合には原則として会社は解散となりますが、定款では持分の相続などについて定めることも認められています。
当サイトを法人化した理由はそれ(筆者個人に帰属するものでなくなるから相続が可能になること)なのですが、筆者が生きて維持することをあまり深く考えてなかった可能性があります。できる限り生きて維持します。