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小説「アノニマス 警視庁指殺人対策室」から学ぶこと


本来は個人サイトで書くようなことなのですが、インターネット上の権利侵害などについて色々と学ぶことが多いのでこちらで書くことにしました。

筆者は映像で見るより文字で読む方が向いているタイプで、人気の映画が同時にノベライズなんかされるとそちらを読んで満足してしまうタイプです。「アノニマス 警視庁指殺人対策室」は毎回録画していましたが、ノベライズが出たので結局そちらを読んでしまいました。ドラマのほうは気が向いたら見るつもりです。

同じようにインターネットの誹謗中傷を扱ったドラマとしては、NHKで2019年に放送された「デジタル・タトゥー」というドラマがあり、高橋克実さん演じるインターネットに疎いヤメ検弁護士がひょんなことから瀬戸康史さん演じるYouTuberとタッグを組み、様々な問題に対処していくというストーリーでした。タイトルにもある「指殺人」は文字通り、指一本で人を殺してしまうかもしれない誹謗中傷の恐ろしさを表したものであり、やっと民放が追いついたという気持ちです。余談ながら、香取慎吾さんが月曜22時台のドラマで主演というのもなんともいえない気持ちになり、また「デジタル・タトゥー」にも出演していた高橋克実さんは警視庁指殺人対策室(通称:指対)の設置に関わる重要な役どころでした。

今回の記事の趣旨としては、具体的なストーリーのネタバレは避け、それぞれの回のテーマから実際に起こりうる、インターネットを利用する誰もが巻き込まれうる問題について学んでいきます。

指対室メンバー

この記事の趣旨からすると本来はそこまで重要ではないですが、それぞれが特色を活かして捜査にあたるので簡単に書いておきます。警視庁生活安全部に設置されたという設定であるようです。

万丞渉(香取慎吾さん)
「ある事件」をきっかけに捜査一課でくすぶっていたところ、指対に配属された。「ある事件」のせいかデジタルツールや匿名の情報を嫌い、自分が動いて証拠をつかみ、当事者と向き合って事件を解決することを重視している。特殊な設定とはいえ、刑事ドラマによくある「主人公の抱える過去の大きな事件の真相解明」もストーリーの主要な軸となっている。

碓氷咲良(関水渚さん)
特殊な設定とはいえやはりこの手のドラマに欠かせない、鬱陶しいほどやる気に満ちた若手の警察官。独断で正義感を暴走させがちなところがある。万丞とバディを組むこととなるが、当初はあまり信用されていない。

菅沼凛々子(MEGUMIさん)
室長から「情報収集のプロ」とまで言われる、やや古いネットスラングで言えば「鬼女」(作中でも言及あり)。その執念深い情報収集力と特定能力で捜査に当たる。

四宮純一(清水尋也さん)
特別捜査官として採用されたいわゆるホワイトハッカー。本来はサイバー犯罪対策課に配属予定だった。

越谷真二郎(勝村政信さん)
指対の室長。室長という立場なので記者会見などで表に出る役割もある。「ある事件」にも深く関わっていた。

第1話「引き金を引いた指」:誹謗中傷によるモデルの自殺

炎上や誹謗中傷に悩んでいながらも、自殺した当日にオーディションでの合格に喜んでいた被害者の状況を不審に思う指対室メンバー。オーディションから死までの空白の時間に何があったのか。

炎上を煽った犯人を突き止めるために、担当刑事たちが裁判所の長い行列に並び、差し押さえの許可状を得てサービスプロバイダからIPアドレス、携帯キャリアから個人情報を開示で合計15時間待ち(これでも短いほうとのことです)の俗にいう「許可状ツアー」の描写が生々しく、日本で情報の匿名性が重視されていることの問題点が現れてきます。情報の匿名性そのものがよくないという意図はありませんが、重視していることの裏返しとして開示にはかなりの手間を要するとのことです。この問題では、炎上を煽った犯人への法的制裁はできたものの…?

そして、謎に満ちた「裏K察」なるサイトの管理人「アノニマス」の特定が、重要なテーマとなっていきます。

第2話「消せない過去」:デジタル・タトゥー、忘れられる権利

婚約関係にある幸せな2人だったが、女性が勘違いによって誹謗中傷を受け、婚約者や職場にも迷惑がかかってしまう。しかし、実は2人の過去にはそれぞれ秘密が…?

勘違いによる誹謗中傷という、インターネット黎明期のスマイリーキクチさん誹謗中傷事件を彷彿とさせる事件です。当事者の家族や親族を名乗る再生数稼ぎの動画、あぶく銭のために検索されやすいワードでいい加減な記事を書くライターなど、生々しい描写はやはり多めです。2人の過去の秘密は「デジタル・タトゥー」として残っていても、それらは「忘れられる権利」があるという話でした。

自分の過去は消せない……それでもあなたたちの未来は、いくらでも描き足せる。

第3話「17歳の殺人者」:教育虐待

未成年のため匿名で報道されていた、(ここまでとは異なる本当の)殺人犯。実名が晒され、父からの訴えで捜査を始める。少年が殺人に至った原因とは…?

第2話ではデマでしたが、たとえ本当の殺人犯とはいえ実名や写真を晒す行為が許されるわけではありません。しかし、ここでは少年が殺人に至った理由は父の極端な教育方針にあり、少年に全く罪の意識がない、当たり前の善悪の判断すらつかない少年の境遇が哀れであることへとスポットが当たりました。いわゆる教育虐待の問題を盛り込んでいるように思います。

第4話「匿名の恋人」:マッチングアプリ、なりすまし

不倫疑惑のゴシップ記事が出た元アイドル。マッチングアプリを通した互いの本名も知らない不倫、過去のストーカー事件、それらはどう関連してくるのか…?

マッチングアプリやSNSでの恐ろしいなりすましの真実がわかると同時に、この行為を果たして否定できるのだろうかという複雑な気持ちにもなるストーリーでした。

あなたにとって正義とはなんですか?

第5話「奪われた居場所」:YouTuber、オンラインサロン、嫌がらせ

人気YouTuberが、オンラインサロンでのトラブルにより強制退会させた相手から誹謗中傷されているという。しかし、削除されたサロン内でのやりとりからわかった真実とは…?

何かと話題のオンラインサロンですが、いわゆる金銭トラブルではありません。人間関係トラブル、それも強制退会の裏にあった真実がかなり恐ろしいです。現実にあったことでこの回のモデルになっている事件として福岡IT講師刺殺事件が思い当たりますが、事実と比べると被害者と加害者の立場や迎える結末にはかなり違いがあります。何かトラブルに遭いそうならたとえ不愉快でも証拠は保存しておきましょう。

第6話「偽りの復讐」:SNSで人助け?

女子学生の恋人、それもちょっとした有名人が誘拐監禁されたという。人助けのために拡散する多くの人々のおかげで、ハッシュタグはTwitterトレンド1位となる。しかしその裏には…?

裏に何があったかは伏せますが、人探しの情報をSNSで何も考えず人助けと思って拡散してしまうことの恐ろしさを感じました。それは、本当に人助けになるのでしょうか。念のため、この回の結末が人助けにならなかったという意図ではありません。

そして、この事件の裏にも「アノニマス」が暗躍していることが明らかになります。

第7話「アノニマスの正体」:大企業への業務妨害、ヒーローまがいの匿名の人々

パワハラ疑惑で大企業への誹謗中傷や爆破予告が起こる。その情報を流したのは裏K察管理人の「アノニマス」。「アノニマス」は今やネット上でヒーローとして扱われ、多くの人が警察よりも「アノニマス」を信じている。警察への不信感と匿名の大衆の正義感を煽る「アノニマス」を放置できない指対、明らかに警察内部しか知り得ない情報を拡散する「アノニマス」によって仲間すらも信用できない状態に追い詰められる。

「正義を気取った勘違い野郎」「私的制裁を許す空気」、現実に起こったらかなり恐ろしい状況です。

そして、終盤に明らかとなる「アノニマス」の正体は2年前の「ある事件」の真相にも関わることでした。

匿名の情報なんか信用するな、ガセネタに振り回されて終わりだ

匿名の正義とは、コントロール不能のモンスターだ

第8話:「名もなき正義」:アノニマスの正体

警察内部にも「アノニマス」による犠牲者が…。炎上などではなく、向き合わなければ暴けない真実もあるという、警察としての主人公たちの正義と「アノニマス」とのぶつかり合い。そして匿名の大衆は、閉鎖された裏K察も「アノニマス」もあっという間に忘れていく…。

第7話の最後で正体は判明しますが、第8話でより詳しく掘り下げられます。「アノニマス」が呼びかける「親愛なる正義の担い手の皆さん」という言葉がなんとも不気味です。

正義っていうのは麻薬ね

総括

あとがきとして、主演の香取慎吾さんによるSNSに関する見解が述べられています。SMAPの解散やジャニーズ退所といった大きな変化を経てSNSを始めた香取さんにとって、「SNSは愛あるコミュニケーションのために欠かせないもの」という持論を述べておられます。本当は私たちはインターネットを通じて幸せになれるのに、自らの心構え次第で不幸で不愉快な場にしてしまっているのかもしれません。現代のインターネットは自分が頻繁に見るものを勧めてくるシステムなので、イヤなものばかり見ているとどんどんインターネットがイヤな世界になっていきます。なるべく好きなものを追い求めて、良くも悪くも見知らぬ他人の発言は他人事として割り切ることのできるように自分自身を確立するのが重要だと考えています。

Posted in リテラシー・権利侵害全般