現時点で、管轄の裁判所が所在し被告および被告代理人の拠点である京都府・原告代理人の拠点である愛知県の両方において緊急事態宣言が解除されましたが、予定通り裁判所と弁護士事務所をweb会議で接続したリモートでの弁論となりました。
前回までの流れはこちらです。
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前回の裁判所からの要求に基づき、原告・被告から以下の証拠を提出しています。
原告:申し立てに遭った動画2本のデータ
被告:著作権を侵害されたと主張している動画5本(?????)のデータ、原告に著作権を侵害されたと主張する証拠(文献などをもととする主張)
そもそも2本の動画に対して5本の動画が出ているのがよくわかりません。YouTubeの個人チャンネル間で著作権が問題になるとしたら、今回の件には無関係ですが動画そのものをコピーされた場合くらいだと思われるので、被告側から提出される動画も最大で2本のはずです。この件において、原告の主張は「被告の動画を参考にした事実はないから著作権侵害が発生しようがない」、被告の主張は「原告の動画で扱われている編み方をその時点で日本語で説明したのは自分しかいないから自分の動画を剽窃したに違いない」という、どちらも悪魔の証明のような状況になっています。
悪魔の証明とは、筆者が尊敬する人…いや悪魔とは無関係なのですが、元々は法律用語であり、哲学や科学の分野でも用いられるようになった言葉です。法律関連で実例を挙げるのは難しいので、わかりやすい例で言えば「宇宙人がいない」ことを人間が証明できるでしょうか。地球に住む人間が宇宙をすべて調べ尽くすことなど不可能なので、おそらくこれは永遠に証明できないと思います。何かが存在しない(あるいは過去のある時点で存在しなかった)ことを証明する、例えばこの裁判の場合は「原告が被告の動画を参考にしていないということ」、「被告が日本語で該当の編み方を説明した時点で他に同じ編み方を説明していた人がいないこと」を主張することはできても客観的に証明することは非常に困難です。よって、被告の主張を崩そうとしたら「該当の編み方をその時点で既に紹介している人がいた」などの被告の主張に対する反証を挙げるしかありません。逆に「原告が被告の動画を参考にした」のような原告の主張に対する反証を挙げるのは客観的な証明が困難なのであまり現実的ではなさそうです。
本来、準備書面を提出し、それを示す証拠を準備書面の中で参照していく形になるのですが(古い本などの脚注を想像するとわかりやすいと思います)、今回は証拠のみしか提出されず、準備書面が提出されていないとのことです。よって被告の主張が直接裁判所に提出された形となります。被告が侵害されたと主張している模様編み以外に論点をずらしているようなところもあり、今までの被告自らの主張を思い出すと、内容によってはかえって被告に不利になる可能性もあります。
また、実際に著作権侵害の警告を3回受けたらチャンネルが閉鎖されるかについて、原告チャンネル以外に同様の被害に遭ったチャンネルのうちの1つは警告を3回受けていたとみられるものの、7日間の猶予期間を過ぎてもチャンネルが閉鎖されることはありませんでした。たとえ3回申し立てを受けても、今回の場合には無関係だと思いますが申し立てが撤回された場合、異議申し立てが受理された場合やその他なんらかの理由でチャンネルを閉鎖する必要がないとYouTubeに判断された場合には、7日間の猶予期間を過ぎてもチャンネルが存続できるようです。関連リンクにはYouTubeのヘルプを載せていますが、過去に閲覧したときと少し表現が変更されたと思います。
関連リンク:著作権侵害の警告に関する基礎知識
次回の第6回弁論期日は2021/04/23(金)と決定いたしました。今回の被告からの主張が不十分であったため、次回も被告からの準備書面の提出となります。代理人フィルター、とても大切ですね。