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編み物ユーチューバー著作権裁判 当事者尋問に関する追記と総括


昨日は速報性を重視したので重要な点を箇条書きしただけですが、よく見ると抜けていた部分をいくつか追記しました。改めて傍聴のメモに用いたB6カード27枚(実際には持参した19枚が足りず裏面に続きを書いていった)を見直し、思うことを書いていきます。

当事者尋問そのものの流れは昨日の記事をご覧ください。適宜追記(赤い字の箇所)しました。
関連記事:編み物ユーチューバー著作権裁判 当事者尋問

昨日貼り忘れていた当事者尋問の動画です。手遊び小町代表としてもかなり慌てていて、代表の個人チャンネルでライブ配信(現在は削除)→手遊び小町チャンネルでライブ配信(誤って削除)→改めて手遊び小町チャンネルよりライブ配信 という流れになり、前の2本は現在閲覧できなくなっています。

当事者尋問に関する一般論

原告・被告とも個人である民事裁判の場合、損害賠償請求などの金銭的・物的な賠償を求めるものが多いです。
例外もあるとは思いますが、それなりに双方がまっとうな民事裁判の場合、原告は受けた被害、被告は罪悪感で意気消沈しています。当事者尋問では、主尋問では陳述書の内容に従って進めていくこと、反対尋問・再主尋問・補充尋問では質問されたことに対して自分の記憶をもとに答えるのがやっとで、主張や意見を述べて裁判官や弁護士に制止される以前に、わざわざ述べる気力はありません。多くの場合は裁判で精神的にも経済的にもそれなりに疲弊した状態です。
また、裁判費用は敗訴した側が負担することになるため、裁判官に対して自分の心証を悪くするようなことはできないという意味でも、聞かれたこと以外を答えるわけにはいかないと思います。

重要です。(昨日からそれしか言ってない)

原告チャンネルYの尋問

主な争点は次の2つです。

原告が侵害された利益
動画2本の削除により失った具体的な見込み収益の金額
警告を受けたことによるチャンネルの価値の毀損や精神的苦痛

原告の過失の有無
異議申し立てを個人として行わず、その後代理人を通した異議申し立てが不受理であったこと
被告の動画を複製又は模倣した事実はないということ
被告の動画と同一・類似の箇所はあったとしても、それはごく一般的な手法であること

昨日も書いた通り、原告が訴状や準備書面で主張してきた内容を改めて本人の言葉で回答するという流れです。これが一般的です。
昨日の記事にも追記しましたが、原告反対尋問での被告代理人からの「被告の動画と似ている箇所はあると思ったか」という質問について、裁判官と原告代理人から「意見の陳述を求める質問にあたり不適切ではないか」という指摘があり、「似ている箇所はあったか」という具体的な事実を問うような形で質問のしかたを変えて問い直す場面がありました。

被告チャンネルSの尋問

主な争点は次の2つです。

被告Sの故意または過失
原告が著作権侵害をしたと確信して申し立て通知を送信した
原告の動画に被告動画と同一の箇所がある
異議申し立てを妨害するような投稿をしたのは、著作権侵害をしていない確信がないとできないからである
異議申し立ての10営業日の猶予期間に削除継続を要求する民事裁判を起こした証拠を提出していない
YouTubeに要求された追加情報も提出していない

被告Sの著作権に対する認識
動画には著作権が発生する
編み方や説明にも著作権が発生する
自分のアイデアや技法をパクられたいYouTuberなどいない
原告のブログの内容をYouTubeのコミュニティ投稿に転載したのは正当なことである
外国の文献の編み方を無断で日本語の動画にするのは正当なことである

被告Sの主張が俗にいう確信犯というより元々の意味の確信犯らしきものなので、故意に著作権侵害申し立て通知で動画を削除したのではなく、過失であると判断される可能性があります。YouTubeの規約上も著作権侵害をされたと明確に思っていないと著作権侵害申し立て通知は送信できません。また、被告が異議申し立てを妨げたのも、本当に著作権侵害を原告等のチャンネルがしていると思い込んでいて、侵害をしたチャンネルが異議申し立てなどできるはずがないと考えていたからということになります。納得がいかない部分もありますが、虚偽を述べないという宣誓を信じるとそうなります。

ただし、このようなことは著作権について適切に理解すれば避けられることなので、過失は少なくとも認められると考えられます。異議申し立てに対して猶予期間に何もしていないこと、YouTubeに補足情報を提出していないことも、過失として、もしかしたら故意に近い重大な過失として認められるかもしれません。原告以外のチャンネルによる異議申し立てに対して裁判を予定しているなどと尋問で主張していましたが、おそらく10営業日の猶予期間を過ぎたらYouTubeの規約やアメリカの法律の上では削除継続は認められない、そうでなければ何のための猶予期間なのだろうと思っています。
例えばキャッシュカードの盗難・不正利用に関する「(故意に近い)重大な過失」は、本人自ら暗証番号を知らせた、本人自らカードを他人に渡した、暗証番号をカードに書いていたといったことがあてはまるのですが、そのレベルの「重大な過失」なのかどうかは筆者は判断できません。ただ、裁判官がそれを判断するために補充尋問をおこなったとは思っています。

一方、著作権に関する認識は、特に裁判官からの補充尋問で多く問われていたので、かなり争点として重視されていると思います。
「動画の著作権」が発生するのは当然のことで、YouTubeでも時々起こっているように他人の動画をそのままコピーしてアップすることは明らかな著作権侵害です。そのまま複製する以外で著作権侵害が認められるのは難しいと思います。
誰が考えても同様となるありふれた表現や、アイデア・方法・作風・技法には著作権が発生しないとされているので、この場合だと編み方や説明で著作権侵害が認められるのは考えにくいです。

ところで、昨日の記事では被告Sの主張する同じ編み方や説明について具体的には記載していませんが、当日の記録に残すにはあまりにも取るに足らないことだったからです。具体的には、「ポーチの最後の段で引き抜き編みをしている」「チェーンつなぎで最後の目を終わらせている」という、非常にありふれた方法について全く同じであると主張していました。時間の制約があり扱える内容が限られる当日の記録に残すにはあまりにも取るに足らないことです(2回目)。筆者が当日のメモにでかでかと書き殴っていた

それは著作物として認められない!

とは、こういったありふれた編み方や説明が著作物として認められないということでした。
編み物に限定せず広くYouTubeという世界で言うと、自分たちの企画・アイデアをぜひ他のYouTuberにも広めたいという趣旨の動画が溢れています。昨日も書きましたが、被告Sの基準で言えばYouTuberはパクられたい人だらけの集まりです。

裁判官や原告代理人、そして被告代理人すらもたびたび質問されたこと以外の主張をしていることや質問を質問で返していることについて警告していました。そのような被告Sの態度や裁判官からの著作権に関する認識を問う補充尋問の回答から考えると、当事者尋問でより被告に不利な状況になったと思われます。

被告共同運営者YMの尋問

争点が「被告チャンネルSへの関与の有無」であり、その証明のために非公開の証拠(メールやメッセージのやりとり)を多く用いたのであまり多くは書けません。
昨日の記事に書いた通り、被告チャンネルSに対する尋問と明らかに矛盾する点がありました。原告動画を見たタイミングのほか、被告YMの事業に関する認識でも被告両名の間で食い違う点がありました。
昨日の段階ではうまくまとめられなかったのですが、この件で受けた嫌がらせだと思っていることを警察に通報したが被害としては届出をしていないことも明らかになりました。
補充尋問での、非公開の証拠の中で被告YMが被告Sを「嫁さん」としているのを裁判官が確認したのは決定打でした。

総括

この裁判の当初から「裁判官や傍聴人が何らかの形で被告両名の主張を直接に聴く機会があったほうがいい」という考えではあったので、やっとその機会が訪れたという気持ちです。紛れもない当事者の主張を当事者本人の言葉で聴くことができたのは書面の証拠以上に重要なことだと思います。

被告チャンネルSが主張するようなアイデア・企画・技法、ありふれた説明までに著作権が発生したらYouTubeの多くの動画、どころか著作権法の目的である「文化の発展に寄与する」ということは成り立ちません。被告の主張を取るに足らないといえばそれまでですが、被告両名は脅迫まがいの手段で主張を押し通そうとしました。被告両名のこのような行いがまかり通ったら文化の発展どころではなく、非常に多くの人に迷惑がかかることになります。どのような判決になるかはわかりませんが、この判例が文化の発展を阻害する行為に対する抑止力になればと考えています。民事裁判における一般論としては最終弁論期日(2021/10/05)から判決まで1ヶ月〜2ヶ月程度ということなので、年内には決着がつくと…いいなとしか筆者には言えません。

「動画そのものには著作権が発生する」「ありふれた説明方法・編み方には著作権は発生しない」「被告Sはありふれた説明方法・編み方にも著作権が発生すると思っている」この著作権に対する認識の齟齬は以前に個人サイトでも取り上げていたのですが、1年以上経って法廷で、裁判官の前で明らかにされたのは非常に価値のあることだと考えています。
参考リンク:編み物著作権問題 コミュニティ投稿の加筆

当事者尋問を文字起こしする京都地裁の書記官の方、傍聴をもとにレポートを提出する3名の司法修習生の方に対しては、筆者は特に何もしていないのですが頭が下がる思いです。

Posted in 編み物ユーチューバー著作権裁判

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