当事者尋問を傍聴してきました。原告及び被告の個人情報に深く関わる部分(家族構成、収益など)や現時点で非公開の証拠(メールやメッセージのやりとり)については、本来は裁判記録として誰でも閲覧可能になるものではあるのですが、念のため言及しないこととします。また、具体的な個別の質問については重要なもの以外は省略します。
追記:2021/07/28 0:00〜1:00頃 誤字脱字や表現など数箇所について些末な修正をしました
追記:2021/07/28 17:00 一部を加筆しました(赤い字の箇所)
法廷の見取り図
作成しました(本日のサムネイル)。裁判官3名の合議制です。
傍聴席で着席可能な席は22席(図の通り本来44席のところ距離をあけて着席)ありますが、途中で満席となっている時間帯もありました。
また、傍聴人は編み物ということで関心を持って来られた方が多いようでしたが、司法修習生の方3名も傍聴されていました。
当事者尋問の原則
質問を個別的かつ具体的にすること。
当事者尋問は録音して書記官によって文字起こしをして裁判記録に綴じる。
そのため、質問に被るような食い気味な回答はせず、一呼吸おき、ゆっくりと回答する。
双方の代理人は、「はい」「いいえ」または簡潔に答えられる一問一答になるような質問を行い、当事者は質問に対してできる限り簡潔に回答する。
当事者は質問されたこと以外について回答したり、質問に質問を返したりしない。
これ、ものすごく重要なので覚えておいてください。
13:30 開廷
弁論期日と同じく、裁判官によって、原告・被告双方から提出された陳述書や証拠の確認が行われます。
あとで詳しく書きますが、主尋問はほぼこの陳述書の内容に即して行われます(重要です)。
被告代理人がギリギリに送付した証拠があったようで、そのコピーに書記官の方が出入りしていました。なかなか始まらず大変そうでした。
この当事者尋問で、侵害された利益・被告の故意または過失・過失相殺について(たとえば原告側に過失があった場合、それを損害額から差し引くこと)を明らかにしていくようです。
13:45頃 人定質問・宣誓
「人定質問」とは、当事者本人であるかの確認です。
裁判官が原告1名および被告2名の氏名を確認します。
個人情報保護の観点から、生年月日と住所はこの場では確認せず、事前に裁判官に提出しておきます。
裁判官から、虚偽の陳述は過料が課されることについて警告があります。
全員が起立し、真実を述べ偽らないことについての宣誓書を当事者3名が同時に読み上げます。
読み上げた後、原告は証言台の席に着席し、その他の法廷内にいる人も自分の席に着席します。
原告主尋問
事前に提出した陳述書が本人のものであることを確認し、内容を確認していきます。
・動画の作成に関すること
・著作権侵害の申し立てを受けたときのこと
・異議申し立てをしたかったが、被告に個人情報を知られるのが怖かったこと
・侵害通知によって被ったチャンネルの不利益(収益、チャンネルとしての価値など)
・著作権侵害の警告によるチャンネル閉鎖のリスクを恐れたこと
・被告の動画を参考にした事実はないということ
要するに、今までの準備書面での主張を原告本人の言葉で確認していくイメージです。
原告反対尋問
被告代理人からの質問について、争点に関して主要なものを挙げます。以後、原告の回答は要点を簡潔にまとめています。
・被告が証拠として提出した動画を、削除された動画を制作する前に見たことはあるかー「いいえ」
・説明は自ら考えたものであるかー「はい」
・被告動画を参考にしていないと言い切れるかー「はい」
・被告動画と似ている箇所はあると思ったかー「同じ編み方のところはあったが、ごく一般的な手法である」
この質問について、裁判官と原告代理人から「意見の陳述を求める質問」にあてはまり不適切ではないかと警告があった。
・異議申し立ては受理されたかー「受理されていない」
原告再主尋問
原告代理人から再び原告本人に対する質問です。
・他の動画を参考にしたかー「被告以外がアップした動画の模様編みを参考にした」
・削除されていた動画は現在どうなっているかー「復活している。YouTubeからの通知によると被告が追加情報を提出していないとのことだった」
・被告が証拠として提出し、侵害を主張している動画5本を、削除された動画2本の制作前に見たことがあるかー「いいえ」
原告補充尋問
裁判官から原告に対する質問です。
・他の動画を参考にしたのかー「被告以外がアップした動画の模様編みを参考にして自分の動画で使用した」
・被告の主張についてどう考えているかー「同じ編み方で同じような説明になる箇所もあるが、全体として全く異なる動画である」
・異議申し立てが受理されなかったのはなぜだと考えているかー「コロナ禍でYouTube運営にも対応の遅れや不備などが生じていた」
14:20 休廷
長丁場になりそうなのでここで一旦休憩が挟まれました。
14:35 再開
被告S主尋問
これも原告主尋問と同じく、事前に提出した陳述書が本人のものであることを確認し、内容を確認していくと思っていました。
・著作権侵害をされたと思ったから著作権侵害申し立てをした。
・原告動画は視聴者から存在を教えてもらって見たが、全く同じだと思った。
・原告が自分の動画を参考にしていないはずがない。
・原告が侵害箇所に心当たりがないというのはうそであると思った。
・動画は著作物であると考えている。(←これ重要です)
・原告動画の復元により要求された補足情報は裁判で係争中のため送っていない。
・原告および原告代理人からの異議申し立ては転送されていない。
・自分が被告であることや悪者扱いされていることが不快である。
事前に陳述書を提出しているため滞りなく終わるはずのものなのですが、質問に対して食い気味に回答する、回答が早口すぎる、質問されたこと以外を述べようとするなどして、再三にわたり裁判官のみならず被告代理人からも警告を受けていました。
報道で刑事裁判を起こされた人を被告ということからの偏見かもしれませんが、民事裁判では単に裁判を起こした側が原告、起こされた側が被告です。このたびの裁判はそうではないですが、時々客観的に見て明らかに原告に非がある裁判もあります。被告になりたくないなら先に裁判を起こせばよかっただけのことです。
不当な疑いの強い行為を非難されているだけで、悪者扱いとか人格否定とかはした覚えはありません。
自分のメモにでかでかと「それは著作物として認められない!」と書いていますが、それを振り返るほどの時間はありません。
被告S反対尋問
非公開の証拠に関することが多いのであまりここに書けることはありませんが、被告の主張を簡潔にまとめます。
・「気づかないうちに侵害している」とはどういうことかー「私の動画の著作権を侵害している」
・著作権侵害申し立てをした時点で弁護士を依頼していたかー「していない。個人として著作権侵害申し立てをした」
・チャンネルLについて、10営業日以内の民事裁判を起こした証拠を提出していなかったかー「はい」
・その裁判を起こすつもりはあったかー「予定している」
・動画のどこに著作権があるかー「デモンストレーション、説明、翻訳など」
・他のYouTuberへの牽制とはどういうことかー「他のYouTuberにパクられたくない」
・動画を見て編んだものは著作権侵害だと思っているかー「はい」
・異議申し立てを簡単にしてはいけないとはどういうことかー「著作権侵害をしていない確信がないとできない」
・「ご報告」と称した動画(俗に言う聖書動画)を非公開にしたのはなぜかー「炎上したから」
・原告のブログをチャンネルのコミュニティ投稿に転載したかー「はい」
10営業日の猶予をなんだと思っているのでしょうか。
動画そのものの著作権と、アイデア・技法などは別の問題であって、被告Sの基準で言えばYouTuberはパクられたい人だらけの集まりです。
そして、「質問に質問を返さず回答してください」という警告をたびたび裁判官や原告代理人から受けていました。
追記した最後の質問、あまりに悪びれずに返答がありましたが、それこそ著作権侵害です。
被告S補充尋問
著作権に関する認識を裁判官が直接被告に質問したのは重要です。
・著作権をどう認識しているかー「動画には著作権が発生する。同じ編み方や同じ説明は著作権侵害」
・弁護士や弁理士に相談し、どのように著作権が発生すると認識したかー「動画には著作権がある」
・何を侵害されたかー「編み方やその説明にも著作権が生じる」
・どういう場合が侵害になると考えているかー「その編み方を日本語で初めて動画にした場合、自分よりあとの動画はすべて著作権侵害」
・外国語の文献を無断で翻訳して動画にすることは問題ないと思っているかー「はい。自分の言葉・表現にしている」
重要です。動画には著作権が発生します。しかし、誰が考えても同様となるありふれた表現や、アイデア・方法・作風・技法には著作権が発生しません。重要です。
この認識を裁判官から確認したことは重要です(何回言うんだ)。
被告YM主尋問
事前に提出した陳述書が本人のものであることを確認し、内容を確認していきます。被告Sとの関与の有無が争点のため質問事項が元々少なく、被告Sと比較したら淡々と進みました。
・被告YMの事業の一部門が被告チャンネルSであること
・被告YMはYouTubeや編み物のことはよくわからないため、チャンネル運営は被告Sに一任していること
・著作権侵害申し立てによる動画削除より後にこのことを知ったということ
・原告側が裁判に関する情報を勝手に公開している
・この件には関与していない
誰でも閲覧可能なこと以外公開していません。
被告YM反対尋問
原告代理人から被告YMに対する質問です。比較的淡々と進みました。非公開の証拠に関わる質問が多かったので載せられるものは少ないです。
・著作権侵害申し立てによる動画削除より後にこのことを被告Sから相談されたかー「はい」
・そのときに原告動画を見たかー「はい」(←これ重要です)
動画削除より後に相談されて原告動画を閲覧できるはずがありません。
被告YM補充尋問
裁判官から被告YMに対する質問です。重要です。
(非公開の証拠で言及されている)嫁さんとは誰のことですかー「(被告Sの実名)」
非公開の証拠なのでその表現が出てきた文脈は公表できませんが、これを裁判官から確認したことには意義があると思います。
16:00頃 閉廷
裁判官から和解を勧告されることもあると聞きますが、裁判官から和解の可能性はないことを確認されました。
次は2021/10/05(火)13:15〜 最終弁論期日(最終準備書面を双方から提出するため、期日が長めにとられています)と決まりました。
最終弁論期日が終了すると次は判決です。やっと終わりが見えてきました。今日はもう時間がないので思うところは明日書きます。差し支えのある箇所がありましたらご連絡ください。