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編み物ユーチューバー著作権裁判 判決の詳細について


原告代理人弁護士のYouTube動画、また原告の支援企業によるライブ配信もありましたが、要点を文章でも解説したいと思います。

動画についてはこちらをご覧ください。
関連リンク:
【編み物著作権裁判】YouTuber対YouTuber裁判の行方を弁護士が解説 (原告代理人弁護士による動画)
判決文を解読 (判決に関するライブ配信) 最大で同時に600人超の方が視聴してくださりました。ありがとうございました。

当日の速報にて、判決の主文をお伝えしました。
関連記事:編み物ユーチューバー著作権裁判 判決の速報

また、判決を受けて各種メディアからも報道されています。こちらの記事に各種メディアへのリンクをまとめているのでご覧ください。
関連記事:編み物ユーチューバー著作権裁判 判決を受けた報道

判決文の構成

判決文の構成は、当日の速報に載せた「主文」と判決の前提となる事実と判決の理由を述べた「事実及び理由」からなります。今回の裁判では全22ページあります。
テレビなどでよく報道されている刑事訴訟の判決では主文及び判決の理由が述べられ、例えば「主文後回し」では死刑判決の可能性が高いことなどが話題となることがありますが、民事訴訟の判決は主文の言い渡しのみのため、あえて俗な言い方をすれば秒で終わります。判決理由を知るには判決書を受け取る必要がありますが、民事訴訟の控訴の期限は「判決書の送達を受けた日から2週間以内」とされているので、不利な側が判決書を即日で受け取らないのは特に珍しいことではありません。
なお、筆者は判決書の写しを持ち帰りました。判決書の写しは各種メディアの担当者の方々なども持っていて、京都地方裁判所に保管されているほか、当事者の個人情報(住所・氏名など)を削除・修正した上で後日判例集などに掲載されたり、裁判所のサイトで公開されたりすることもあります。

「事実及び理由」はさらに第1「請求」で原告の請求、第2「事案の概要」で原告・被告双方についてのことやYouTubeの規約やその根拠となるアメリカの法律および原告動画の削除などの前提事実、争点、争点に関する原告・被告双方の主張、第3「当裁判所の判断」で各争点に関する判断、第4「結論」で原告の主張の理由がある部分を認めそれ以外は理由がないとして棄却する旨が記載されるという構成です。かなりのボリュームがあり、裁判官がなるべく和解に持ち込もうとするのも頷けます。

損害賠償請求において根拠となるのは民法第709条です。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法第709条(不法行為による損害賠償)

具体的な争点と京都地方裁判所の判断

判決文に挙げられている主な争点の「本件侵害通知による不法行為責任の成否」「被告YMの責任の有無」「損害の発生及びその額」「過失相殺」に関する京都地方裁判所の判断を解説したいと思います。以下、被告チャンネルSと被告共同運営者YMは実際にはそれぞれ実名の姓ですが、ここでは「被告S」「被告YM」と表現します。

本件侵害通知による不法行為責任の成否

民法第709条に定める不法行為に該当するか、要するに「被告の故意又は過失があるか」「原告の権利又は法律上保護される利益が侵害されたといえるか」ということになります。

技術や手法といったアイデア自体は、著作権法による保護の対象となるものではない。

あたりまえ体操(投げやりですみません)。

被告Sは、編み方が同一又は類似のものを説明する動画であれば、先行して動画を投稿した被告Sの著作権を侵害するものとなるとの独自の見解に基づき、複数の投稿者に対し、繰り返し著作権侵害通知をしていたと認めるほかはなく、原告に対する著作権侵害通知も、その一環として行われたと認められる。(中略)著作権侵害がない蓋然性があると認識した上で、あえて本件侵害通知を行ったもの認めざるを得ない。

「独自の見解」というパワーワード。
「蓋然性(がいぜんせい)」とは判決文ではよく出てくる用語で、よりなじみのある言葉に置き換えると「確率」や「可能性」あたりになります。
本当はとても長いのですが、要点を抜粋しました。裁判官の方々が証拠として提出された動画を閲覧された上で判断されたことが伝わってきます。

編み物の編み方を説明した動画の著作権侵害の成否について法的問題があることを認識しながら、前記のような独自の見解に基づき、双方の表現方法の同一性又は類似の如何にかかわらず、あえて本件侵害通知を行ったものと認めるほかはない。かかる被告Sの注意義務違反の程度は著しく、少なくとも重過失があったと認めるのが相当である。

何度か例に出していますが、キャッシュカードの盗難・不正利用というわかりやすい例でたとえると、本人自ら暗証番号を知らせた、本人自らカードを他人に渡した、暗証番号をカードに書いていたといったことがあてはまり、故意に近い重過失とされます。この件についてはそれと同等の重過失が少なくとも認められ、不法行為があったとの判断です。

被告YMの責任の有無

本侵害通知による不法行為につき、被告YMも、共同不法行為者(ないしは幇助者)として、被告Sと同様の責任を負うと認めるべきといえる。

現時点で非公開の証拠に関わるところが多いのであまり細かい根拠は書けないのですが、民法第719条に定める共同不法行為者(幇助者を含む)として連帯して損害賠償責任が認められました。

損害の発生及びその額

動画の投稿・共有やこれを通じた他の利用者との関係によって、人格的な利益が生ずることは否定し難く、動画の削除やチャンネルの停止等により、こうした利益を享受できなくなることや、その可能性が具体的に生ずることにより、投稿者が精神的苦痛を受け、損害を被ることはあり得ると解される。

YouTubeのSNSとしての性質にも踏み込んだ人格的な利益を認める判断です。
「人格的な利益」というのは、行政書士試験で学んだ憲法・民法・行政法あたりの判例からすると裁判で認められることがとても難しいものであるとわかりました。有形の物を壊された場合でも損害賠償の額はそれに対して微々たるものであることが多いにもかかわらず、動画コンテンツという無形の物や人格的な利益を法律上保護される利益と判断したのは非常に進んだ判例といえると思われます。
その他、動画の削除により失った広告収益(これも実際は細かく計算されています)、弁護士費用などを含み合計約7万円の損害の額が認められました。
実のところ、YouTubeが提訴以降に動画を復元したことがかえって原告に不利に働くのではないかと心配していましたが、それでも動画が削除されたことに関する権利侵害や利益の侵害が認められたのでいらぬ心配でした。

過失相殺

過失相殺とは、民法第722条2項の被害者の過失を考慮して裁判所が損害賠償の額を定めることができるという条文に基づくもので、被害者に過失があった場合にそれを損害賠償の額から差し引いて相殺するということです。

弁護士代理人に委任して異議申立てを行った原告について、損害賠償額を減額することを相当とする程度の過失があったとまでは認められないというべきである。

原告動画の異議申立てが不受理であったことについて損害賠償額を減額する過失はない、つまり過失相殺は認められないとの判断です。

まとめ

損害賠償額の多寡の問題ではなく、判決でここまでYouTubeのシステムや動画コンテンツ、人格的利益に踏み込んだ判断がされたことが画期的であると考えています。
今のところ被告両名に反省の様子が見られないのが残念ですが、先日も述べた通りこの調子なら控訴の可能性は低いと前向きに考えています。同じようなことの再発の防止は何かしら必要になってくると思います。

Posted in 編み物ユーチューバー著作権裁判

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