数ヶ月かかると思っていたので想像していたよりかなり早かった。
ということで、早くも控訴審判決が裁判例検索に掲載されました。
関連リンク:令和4年10月14日 大阪高等裁判所
一審判決については以下の通りです。
関連記事:編み物ユーチューバー著作権裁判 裁判例検索に掲載
関連リンク:令和3年12月21日 京都地方裁判所
編み物ユーチューバー著作権裁判とはしているものの民法上の不法行為が主な争点と認識していましたが、検索では「高等裁判所判例」ではなく「知的財産裁判例」として出てきます(!)。「損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件 著作権 民事訴訟」との扱いです。
大阪高等裁判所には個人情報の削除修正などのない原文が保管されています。事件番号がわかれば原文の判決文のみではなく、訴状や準備書面、証拠など今までの裁判記録も閲覧できますが、閲覧した人の個人情報も裁判記録に保管されて後に閲覧した人が見ることができます。
個人情報の修正等に時間がかかるものと思っていました。高等裁判所では地方裁判所より扱う事件の数が少なく重要なものが多いため、元々早期に公開する予定で準備が進められていたと思われます。
全30ページにわたる、一審より長い判決文です。
また、略称等は原則として「原判決の例による」とされているので、本日のサムネイルは原判決での相関図をそのまま使用しています。
原判決のA〜M(原判決の記事で解説)の記号に加え、次の略称が用いられています。
N:一審原告と同じく動画を削除されたチャンネル。当サイトで用いた略称ではチャンネルCC。
O:被控訴人(チャンネルY)。被控訴人は単独のため文中ではこの略称は用いられてない。
P:一審被告S・一審被告YMの強迫により動画を自主的に削除したチャンネル。当サイトで用いた略称ではチャンネルCP。
判決文の読み方
個人情報の削除修正により、インターネット上に公開されている判決文は全30ページです。また、高等裁判所のため担当裁判官は3名ですが、そのうち1名は途中で交代しています。
主文(1ページ)
日付・事件番号・当事者のあとに記載されています。
損害賠償の金額や法定利息(損害賠償請求の場合は損害が発生した時から被害者に債権が生じるため)、仮執行について述べられている判決の主要な部分です。民事訴訟の判決はこの部分の読み上げのみで終わります。
この判決では、控訴を棄却した上で附帯控訴に基づいて原判決が変更され、賠償が増額されています。
事実及び理由(2ページ〜30ページ)
第1 控訴の主旨(2ページ)
控訴人(一審被告)の請求です。
第2 附帯控訴の主旨(2ページ)
被控訴人(一審原告)の請求です。
第3 事案の概要(2ページ〜10ページ)
結審までの書面や証拠で認められた事実や争点についてまとめられています。
1 (項目名なし) 請求の概要(2ページ〜3ページ)
2 前提事実(3ページ〜6ページ)
3 争点(7ページ)
4 争点に関する当事者の主張(7ページ)
5 当審における当事者の補充主張(8ページ〜10ページ)
争点は「一審被告Sの本件侵害通知による不法行為の成否」「一審被告YMの共同不法行為の成否」「損害の発生及びその額」の3つです。
「当審における当事者の補充主張」において控訴審での新たな主張が述べられています。
第4 当裁判所の判断(10ページ〜29ページ)
上記の3つの争点に関する大阪高等裁判所の判断です。これだけで原判決全文くらいのボリュームがあります。
長いので俗にいう切り抜きのようなパワーワード集(ページ番号付き)
一部、当日の速報でも掲載した部分もありますがご了承ください。
なお、当サイトでの掲載において当サイトで用いてきた略称を用いる場合がありましたが、今回は公開された判決文のままとします。
控訴人B=一審被告チャンネルS、控訴人D=一審被告共同経営者YM、被控訴人=一審原告チャンネルYです。
YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で広く世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。
令和4年10月14日 大阪高等裁判所 11ページ
著作権侵害の有無を予め検討していたのであれば、それが法的に失当であろうとも、本件侵害通知後の被控訴人からの問い合わせに対して著作権侵害と考える理由を端的に回答できるはずであるが、被控訴人に対する回答ぶりは専ら困惑させることに終始するものである(中略)控訴人動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが控訴人動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した控訴人Bの著作権を侵害するとの独自の見解を有し、(中略)必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相当である。
令和4年10月14日 大阪高等裁判所 21ページ
以上のような諸事情を総合すると、控訴人Bは、著作権侵害通知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿する者の動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。
令和4年10月14日 大阪高等裁判所 22ページ
著作権侵害通知の内容が正確であることについて何ら検討することなく漫然と法的根拠に基づかない本件侵害通知を提出したという点で必要な注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるのであって、これにより本件侵害通知の対象動画の投稿者である被控訴人の法律上保護される利益を侵害したものであるから、控訴人Bが本件侵害通知を提出した行為は、被控訴人の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。
令和4年10月14日 大阪高等裁判所 22ページ
控訴人Bが3回目となる著作権侵害通知をすることで、被控訴人のチャンネル停止・全動画の削除という事態が起きかねないことをほのめかすなど、被控訴人をして専ら畏怖、困惑させるばかりで、事後的にも誠意ある対応をせず、原判決において控訴人らの指摘する被控訴人動画による著作権侵害が認められない旨判断された後も、被控訴人動画が控訴人動画の盗作であるかのような独自の見解に基づくコメントをYouTubeのチャンネルに記載していること(略)精神的苦痛を慰藉する金額は20万円を下らないというべきである。
令和4年10月14日 大阪高等裁判所 24〜25ページ
独自の見解ビーム多すぎでは
この判決をもとにすると、被告チャンネルSの行為がYouTubeの規約違反に当たることは明白であるかと思います。
あとはYouTubeの判断次第です。
第5 結論(29ページ)
原判決は一部失当ビーム判決文の定型文のようなものですが、原告の主張で理由のある部分は認め、理由のない部分は棄却するという判決について書かれています。最後に担当裁判官3名(他1名は転補=異動)の署名で終わります。