ついに決着!大増31ページ!(判決文のページ数)
本日、大阪高等裁判所で控訴審判決の言い渡しがありました。
同日に大阪高等裁判所で参議院選挙のいわゆる「一票の格差」に関する違憲判決、また併設の大阪地方裁判所でウーバーイーツ配達中の事故(個人事業主という形態で運営元が責任を負うかが重要視されていたと思われる)に関する民事訴訟の和解があり、こちらについての報道はいくつかのメディアで取り上げられていますが、本日21時の時点で今のところこの件に関する報道を筆者は見つけていません。人口密集地の住民に一票の格差を毎回ドンバチやられた結果、地元の参議院選挙が鳥取島根合同選挙区になった筆者の気持ちを答えよ。
判決について
15時からのライブ配信で、原告代理人弁護士と原告の支援企業代表、そして原告当事者から判決について報告いたしました。
関連リンク:裁判のご報告
判決の主文は以下の通りです。
1 控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。
令和4年10月14日判決
2 被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決主文1、2項を次のとおり変更する。
(1) 控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して26万1514円及びこれに対する令和2年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを4分し、その1を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決は、2項(1)に限り、仮に執行することができる。
つまりどういうことだってばよ
控訴人は一審被告、被控訴人は一審原告です。
1で控訴棄却、つまり一審被告は一審に引き続いて敗訴となっています。
2で附帯控訴に基づき一審判決を変更し、一審判決の「7万4721円」を「26万1514円」としています。つまり一審以上に原告の主張が認められたということになります。ちなみに附帯控訴をしていなかった場合、控訴人の不利益になる判決の変更(損害賠償の増額)はできません。附帯控訴がこんなに重要だったとは。
3については、損害賠償額に基づき、訴訟費用(印紙代等)の4分の1を一審被告、4分の3を一審原告が負担するとしています。
4については、損害賠償を支払わなかった場合に一審被告の財産を差し押さえできるという規定です。
ちなみに控訴審の判決文は各当事者の個人情報や裁判官の署名を含めると、一審(全22ページ)を上回る全31ページです。
構成としては事件番号・当事者・代理人・主文(1ページ〜2ページ)、控訴の趣旨・附帯控訴の主旨・事案の概要(2ページ〜11ページ)、当裁判所の判断(11ページ〜30ページ)、結論(30ページ)、裁判官署名(31ページ)です。「当裁判所の判断」がほぼ一審判決全文に近いボリュームで、かなり踏み込んだ判断がなされたと考えられます。
今回の争点はほぼ一審と同じですが、一審原告の過失相殺(過失の有無)については損害の発生と共に検討する形で次の3つとなっています。
以下、判決文では一部実名ですが、当サイトで今まで用いてきた表現に改めます。
(1)一審被告チャンネルSの本件侵害通知による不法行為の成否
(2)一審被告共同運営者YMについての共同不法行為の成否
(3)損害の発生及びその額
大阪高等裁判所の判決の中で特に重要だと思われる点をそれぞれについて引用します。判決文としては長いですが、やはり高等裁判所というべきか、あれだけ踏み込んだ判決をした一審以上に踏み込んでいます。
例によって、引用部分に当事者の個人情報を含む場合、適宜当サイトで用いていた表現に言い換えています。
一審判決はこちらです。
関連リンク:令和3年12月21日 京都地方裁判所
突然の控訴審判決パワーワード集です。
(1)一審被告チャンネルSの本件侵害通知による不法行為の成否
YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスであり、投稿者は、動画の投稿を通して簡易な手段で世界中に自己の表現活動や情報を伝えることが可能となるから、作成した動画をYouTubeに投稿する自由は、投稿者の表現の自由という人格的利益に関わるものということができる。したがって、投稿者は、著作権侵害その他の正当な理由なく当該投稿を削除されないことについて、法律上保護される利益を有すると解するのが相当である。
令和4年10月14日判決
YouTubeが原則として著作権侵害の実体的判断をなさないため、著作権侵害通知が潜在的には濫用的に用いられる可能性があることから、著作権侵害通知をする者に予め注意義務を課して濫用的な著作権侵害通知をなさないよう対策を講じているものと解される。
令和4年10月14日判決
一審被告S動画で紹介した編み目と同一の編み目を説明する動画であれば、それが一審被告S動画に依拠したものか否かを問わず、先行して動画を投稿した一審被告Sの著作権を侵害するとの独自の見解を有し(中略)必要な注意義務を怠って漫然と本件侵害通知を提出したものと認めるのが相当である。
令和4年10月14日判決
一審被告Sは、著作権侵害通知制度を利用して、競業者であるといえる同種の編み物動画を投稿するものの動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。
令和4年10月14日判決
必要な注意義務を怠った過失があるといえるばかりか、前記のとおり著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできるのであって(中略)一審被告Sが本件侵害通知を提出した行為は、一審原告の法律上保護される利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するというべきである。
令和4年10月14日判決
独自の見解ビームいただきました要約:
ここは表現の自由大国日本なので日本の法律で考えてください。この注意義務違反ぶりはアメリカならGoogleに訴えられても文句言えんけど。
(2)一審被告YMについての共同違法行為の成否
一審被告YMも、共同不法行為者として、一審被告Sと同様の責任を負うべきものと認められる。
令和4年10月14日判決
非公開の証拠を根拠とする部分も多いので詳細は述べられませんが、しれっと一審の「共同不法行為者(ないしは幇助者)」から「共同不法行為者」になってる件。
(3)損害の発生及びその額
原判決において一審被告らの指摘する一審原告動画による著作権侵害が認められない旨判断された後も、一審原告動画が一審被告S動画の盗作であるような独自の見解に基づくコメントをYouTubeのチャンネルに記載していることなど、本件に現れた一切の事情を考慮すると、一審原告が、上記の人格的利益の侵害により受けた精神的苦痛を慰藉する金額は20万円を下らないというべきである。
令和4年10月14日判決
独自の見解ビームいただきました(2回目)
大幅に増額されたのは精神的損害に対する慰謝料の部分であり、一審で5万円のところ、控訴審では20万円が認められました。
失った広告収益の見込みについては一審と同額の1万7929円、弁護士費用については裁判所の慣例としては大いに欠陥があるとは思うものの通例では損害賠償の金額の1割であるところ、損害賠償の金額の2割が認められました。
今後のこと
上告の権利は控訴人(一審被告ら)に判決文を受け取ってから2週間あるにはあるのですが、特にこの件について最高裁判所が介入する余地があるように思えないので、仮に上告されたとしても決定または口頭弁論を経ない判決での棄却により、この判決に影響を及ぼさない可能性が高いと思われます。弁論を経ず棄却する場合、特に最高裁判所は期限を設けていないのですが、ほとんどの場合上告から6ヶ月以内に棄却の通知があるようです。
高等裁判所での前例のない判決、またインターネット上での表現の自由を明言した判決ということで、これから法律を学ぶ人や法律実務家の方々、インターネットを利用する人全般の関心を集めるといっても過言ではありません。
また、一審と同様に個人情報等を修正し、裁判所の判例検索にも掲載されることが予想されます。これも一審同様に時間がかかるものと考えられます。公開を確認したらお知らせします。